ポリファーマシーとは
「ポリファーマシー(polypharmacy)」とは、単に薬の種類が多いことではなく、多剤服用によって副作用のリスクが高まったり、飲み間違いが増えたり、薬を正しく飲み続けることが難しくなるなどの問題が生じている、あるいは生じるおそれがある状態のことをいいます。
何種類からポリファーマシーとするかに厳密な定義はありませんが、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年)では、副作用が6種類以上の服用で特に増加するデータをふまえ、「5〜6種類以上を多剤服用の目安とすることが妥当」とされています。なお、10種類以上は「ハイパーポリファーマシー」と呼ばれることもあります。
日本のポリファーマシーの現状
少子高齢化が急速に進む日本では、ポリファーマシーは高齢者を中心に広く見られる問題です。
- 75歳以上の院外処方患者の約24%が7種類以上の薬を処方されています(厚生労働省「令和5(2023)年 社会医療診療行為別統計」・2023年6月調査分)。
- 東京都健康長寿医療センター研究所が後期高齢者100万人のレセプトデータを分析した研究では、75歳以上の64.0%が5種類以上の薬剤を内服しており、平均薬剤数は6.4種類に上ることが明らかになっています(東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース・2020年3月、英文誌 Geriatrics & Gerontology International 掲載)。
こうした実態を受け、厚生労働省は「病院・地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」を公表し、医療機関や地域での対策を推進しています。
ポリファーマシーが引き起こす問題

1. 副作用リスクの増加
飲む薬の種類が増えるほど、副作用が起きやすくなります。東京大学医学部附属病院老年病科に入院した患者2,412名を対象にした調査では、飲んでいる薬が6種類以上になると副作用の発生率が統計的に有意に高まることが確認されており、薬の数が増えるほどそのリスクはさらに上昇します。
(出典:Kojima T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:761-2 | PubMed)
2. 転倒・骨折リスクの上昇
薬の種類が多いと、ふらつきや眠気が生じやすくなり、転倒のリスクも高まります。東京都内の診療所に通院する高齢者165名を対象にした調査では、薬を5種類以上飲んでいる方の転倒発生率は、4種類以下の方に比べて統計的に有意に高いことが示されています。
転倒は骨折、さらには寝たきりや要介護状態につながるリスクがあり、高齢者にとって特に深刻な問題です。
(出典:Kojima T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:425-30 | PubMed)
3. 服薬過誤・飲み忘れ
種類が多くなるほど「飲み忘れ」「飲み間違い」が増え、治療効果が得られなくなるリスクが高まります。認知機能の低下がある高齢者では特に注意が必要です。
4. 薬の相互作用
複数の薬を同時に服用することで、薬同士が互いの効果を強めたり弱めたりする「薬物相互作用」が生じることがあります。例えば、血液をさらさらにする薬と解熱鎮痛薬の組み合わせで出血リスクが上昇するケースなどが知られています。
5. 医療費の増大
不必要な薬の服用が続くことで、個人・社会ともに医療費の無駄な増大につながります。
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025が示す注意点
2025年7月、一般社団法人 日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」を10年ぶりに改訂・発刊しました。同ガイドラインは、75歳以上の高齢者や、75歳未満でもフレイル(虚弱)や要介護状態にある方を主な対象としています。
特に慎重な投与を要する薬物
ガイドラインでは「特に慎重な投与を要する薬物リスト」を提示しています。以下はその代表例です。
| 薬剤カテゴリ | 主なリスク |
|---|---|
| 睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など) | 転倒・骨折、認知機能低下、過鎮静 |
| 抗コリン薬(一部の抗ヒスタミン薬・胃薬など) | 認知機能低下、口渇、便秘、尿閉 |
| 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | 消化管出血、腎機能低下 |
| スルホニル尿素系血糖降下薬 | 低血糖 |
| 強心配糖体(ジゴキシンなど) | 中毒症状(吐き気、食欲不振) |
また、2025年版では「日本版抗コリン薬リスクスケール(J-ACRS)」が新たに追加されました。抗コリン薬のリスクを点数化して評価する指標で、多剤服用している高齢者の処方見直しに活用されます。
開始を考慮すべき薬物
一方で、ガイドラインは「処方を減らす」だけでなく、「本来必要なのに処方されていない薬物を開始する」視点も重視しています。過度な減薬による治療不足にも警鐘を鳴らしています。
総合的な評価(CGA)の重要性
ガイドライン2025では、高齢者の処方見直しにあたって、病状だけでなく認知機能・日常生活活動(ADL)・栄養状態・生活環境・服薬状況などを「高齢者総合機能評価(CGA)」を用いて包括的に評価することが重要とされています。「何種類飲んでいるか」という数字だけでなく、その人の全体像を見て処方を判断することが求められています。
ポリファーマシーへの解決策

1. かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師を持つ
厚生労働省が推進するかかりつけ薬剤師制度では、一人の薬剤師がすべての処方薬・市販薬・サプリメントを一元管理し、重複処方や飲み合わせの問題を継続的にチェックします。複数の医療機関を受診していても、すべての薬を1か所の薬局でまとめて管理することで、見落としを防ぐことができます。
かかりつけ薬局のメリットについては「かかりつけ薬局のメリットと2026年からの変化を解説」もあわせてご覧ください。
2. お薬手帳を活用する
お薬手帳は、服用しているすべての薬の記録を一冊にまとめるためのツールです。複数の医療機関・薬局を利用している方は、お薬手帳を1冊に統一することが重要です。市販薬やサプリメントも記録しておくと、薬剤師・医師がより正確な判断を行えます。
3. 定期的な処方の見直し
薬は一度処方されると長期間継続されることが多いですが、症状が改善した後も漫然と服用が続くことがあります。定期的に医師や薬剤師に「本当にこの薬は今も必要ですか?」と相談し、不要な薬の中止や減量を検討することが大切です。
4. 残薬の確認と整理
「飲み忘れて薬が余っている」という状況は、意外に多く見られます。残薬を薬局に持参することで、処方量の調整や、重複・不要な薬の整理につながります。
薬局でできるポリファーマシーの相談
薬局は、病院受診の前後を問わず気軽に立ち寄れる医療機関です。次のような場合は、ぜひかかりつけの薬局・薬剤師に相談してみましょう。
こんなときは薬局へ相談を
- 飲んでいる薬が5種類以上ある
- 複数の病院・クリニックから薬をもらっている
- 薬を飲み始めてから体調の変化(だるさ・ふらつき・食欲低下など)を感じる
- 薬の数が多くて管理しにくい・飲み忘れが増えた
- 市販薬やサプリメントとの飲み合わせが心配
- 処方された薬の必要性に疑問を感じる
薬剤師は、持参した薬やお薬手帳をもとに、薬の一覧表を作成し、主治医への処方見直し提案まで行うことができます。一人で抱え込まず、まずは薬局の窓口に声をかけてみてください。
まとめ
ポリファーマシーは「薬が多い=よく診てもらっている」わけではありません。高齢になるほど薬の効き方や副作用が変化し、転倒・認知機能低下・入院リスクが高まります。
- 75歳以上の約4人に1人が7種類以上の薬を服用しているのが現状です。
- 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」では、「特に慎重な投与を要する薬物」が示され、個人の状態に応じた総合的な処方評価が重要とされています。
- 解決の鍵は「かかりつけ薬局・薬剤師を持つこと」「お薬手帳を一冊に統一すること」「定期的な処方の見直し」です。
ご自身やご家族の薬が多いと感じたら、まずはかかりつけ薬局への相談から始めてみましょう。
参考資料・出典
- 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025 | 日本老年医学会
- 令和5(2023)年 社会医療診療行為別統計 | 厚生労働省
- 100万人のレセプト情報から解明:東京都の75歳以上高齢者の6割超が5種類以上の薬剤を内服 | 東京都健康長寿医療センター研究所(2020年)
- 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)| 厚生労働省(2018年)
- 病院・地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方 | 厚生労働省
- Kojima T, et al. “High risk of adverse drug reactions in elderly patients taking six or more drugs: analysis of inpatient database” Geriatr Gerontol Int. 2012;12:761-2 | PubMed
- Kojima T, et al. “Polypharmacy as a risk for fall occurrence in geriatric outpatients” Geriatr Gerontol Int. 2012;12:425-30 | PubMed
- 身近な健康の相談役「かかりつけ薬剤師・薬局」を持ちましょう | 厚生労働省
編集注: 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」の書誌情報・詳細内容は、日本老年医学会の公式ページまたは書籍(メジカルビュー社刊、ISBN978-4-7583-0497-9)でご確認ください。記事中の「特に慎重な投与を要する薬物」の具体例は代表的なカテゴリを記載しています。2025年版での変更点を正確に反映したい場合は、書籍をご参照ください。

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