停電・断水のとき、薬はどう管理する?冷蔵保存の薬・飲み方・医療機器の注意

コラム

停電や断水のときは、薬を高温と直射日光から守り、冷蔵庫の扉をむやみに開けないことが基本です。そのうえで、冷蔵保存が必要な薬は、自己判断で捨てずに薬剤師へ相談してください。

被災地では「冷蔵庫が止まってしまったインスリンは、もう使えないのだろうか」「水がなくて薬が飲めない」といった相談がとても多く寄せられます。どちらも、答えを知っていれば落ち着いて対応できることです。

この記事では、停電・断水という状況にしぼって、薬とのつき合い方を整理します。持病のあるご家族と避難されている方に、特に読んでいただきたい内容です。

停電したら、冷蔵庫の中の薬はどうなりますか?

まず、扉を開けないでください。 開け閉めをくり返すと庫内の温度が一気に上がります。停電直後の冷蔵庫は、しばらくのあいだ保冷庫として働いてくれます。

インスリン製剤については、日本くすりと糖尿病学会が「停電していても冷蔵庫内のインスリン製剤は使用可能である」との考え方を示しています。停電=ただちに使えなくなる、ではありません。

そのうえで、次の点を確認してください。

  • 見た目に変化がないか(濁り、変色、固まり、容器の破損)
  • 凍っていないか(凍結したものは使えません)
  • 高温にさらされ続けていないか

見た目に明らかな変化があるものは使わず、薬剤師や医療救護所に相談してください。

インスリンは、冷蔵庫が使えなくても大丈夫ですか?

日本くすりと糖尿病学会は、災害時のインスリン自己注射について次のような考え方を示しています。

  • 未使用のインスリン製剤の保管温度は2〜8℃で、凍結を避けることとされている
  • 停電していても、冷蔵庫内のインスリン製剤は使用可能である
  • 酷暑などの高温環境では、プレフィルド型の注入器に限って、使用開始前後にかかわらず避難所の冷蔵庫に入れておくことも選択肢となる
  • 使用期限が多少過ぎていても使用を継続させ、できるだけ早く新しい製剤を入手する

注射に必要な物品についても、次のように示されています。

  • 注射針は毎回新しいものに交換するのが理想だが、足りない場合は再使用でも可
  • アルコール消毒綿が不足しているときに注射部位が汚れている場合は、固く絞った濡れタオルなどで拭き、よく乾いてから注射する

これらはあくまで、災害という非常時における考え方です。平時のやり方とは異なります。状況が落ち着いたら通常の方法に戻し、扱いに迷うときは必ず医師・薬剤師にご相談ください。

なお、これはインスリンに限った話ではありません。自己判断で注射や薬を中断すると、体調が急変するおそれがあります。 「使えるかどうか迷う」場合こそ、捨ててしまう前に相談してください。

飲み薬は、暑い場所に置いておいても平気ですか?

多くの飲み薬は「室温保存」とされています。この「室温」は、日本薬局方で1〜30℃と定められています

つまり、夏場の被災地でよくある次のような場所は、保管場所として適していません。

  • 車の中(真夏の車内は非常に高温になります)
  • 直射日光の当たる窓辺やテントの中
  • 暖房器具のそば

なかでも坐薬は、暑さの影響を受けやすい剤形です。日本薬局方の製剤総則では、坐剤は体温によって溶融することなどにより有効成分を放出する製剤と定められています。体温程度で溶けるように作られているため、暑い場所では形が崩れてしまいます。

そのほかの薬については、製品ごとに保存方法(貯法)が決められています。シロップ剤や一部の点眼薬のように「冷所保存」と指定されているものもあるため、薬の袋や説明書の表示を確認してください。冷所保存の指定がある薬は、停電のときに特に注意が必要です

避難所では、できるだけ涼しく、日の当たらない場所に、家族分をまとめて1つの袋に入れて管理してください。まとめておくと、急な移動のときにも持ち出しやすくなります。

断水中、薬はどうやって飲めばよいですか?

薬を飲むための水は、確保しておきたいものの1つです。 そのうえで、次の点に気をつけてください。

飲み物で代用するときの注意

水がないからといって、手近な飲み物で代用するのは避けたほうが安全です。飲み物によっては、薬の効き方に影響することが知られています。判断に迷う場合は、薬剤師にご相談ください。

水が少なくても飲みやすい剤形

口の中で溶けるタイプの錠剤(口腔内崩壊錠)は、少ない水でも飲みやすい剤形です。ふだんから飲みにくさを感じている方は、平時のうちにかかりつけの薬局で相談しておくと、災害時に助かります。

飲み込みにくいとき

とろみのある水分やゼリーを使う方法もありますが、薬によっては砕いたり溶かしたりしてはいけないものがあります。徐々に成分が出るように設計された薬などが該当します。自己判断で砕かず、必ず薬剤師にご確認ください。

薬が水にぬれた・泥がついたときは、使えますか?

次のような薬は使わないでください。

  • 中身がぬれてしまった薬、湿ってやわらかくなった薬
  • 変色、においの変化があるもの
  • 泥や汚水がついたもの
  • ラベルが読めなくなり、何の薬かわからなくなったもの

PTPシート(銀色のシート)に入ったままで、中身が守られている場合は使えることもあります。外側を清潔なタオルで拭き、判断に迷うものは薬剤師に見てもらってください。

「もったいない」と思う気持ちはよくわかります。ですが、品質が落ちた薬は本来の効果が得られないおそれがあります。薬は、災害時でも代わりを手に入れる道があります災害で薬がなくなったら?処方箋なしで薬を受け取る方法と手順をご覧ください)。

電気が必要な医療機器を使っている場合は、どうすればよいですか?

在宅酸素療法、人工呼吸器、CPAP、吸引器、電動ベッドなどを使っている方にとって、停電は命に関わります。

平時のうちに準備しておきたいこと

  • 機器を借りている業者の緊急連絡先を、紙に書いて機器のそばと持ち出し袋に入れておく
  • 予備電源(内蔵バッテリー、外部バッテリー、自動車からの給電など)の使い方を家族全員が知っておく
  • 携帯用酸素ボンベの残量と使用可能時間を把握しておく
  • 自治体や電力会社の登録制度があるか確認しておく

在宅酸素療法での火気の注意

停電時はろうそくやストーブを使いたくなりますが、酸素を使用中の火気は非常に危険です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は「酸素吸入中には、絶対にたばこを吸わないで下さい。また、周囲2m以内には火気を置かないで下さい」としています。火災の原因として、たばこのほか、線香やろうそく、ガスコンロやストーブが挙げられています。

停電時の明かりは、必ず電池式のライトを使ってください。

車中泊をするとき、気をつけることはありますか?

2つ、命に関わる注意点があります。

エコノミークラス症候群

厚生労働省は、長時間同じ姿勢でいることで「血行不良が起こり、血液が固まりやすくなります」と説明し、定期的に体を動かし、十分に水分をとるよう呼びかけています。禁煙も重要とされています。

血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方が、その薬を切らしている状態で車中泊を続けるのは、特に注意が必要な状況です。早めに薬の相談をしてください。

一酸化炭素中毒

厚生労働省は「屋内や車庫などの換気の良くない場所や、窓など空気取り入れ口の近くで、燃料を燃やす装置(発電機、木炭使用のキャンプストーブなど)を使用しないようにしましょう」としています。

車内やテントの中も、換気の良くない場所です。 暖をとるためであれ調理のためであれ、燃料を燃やす装置を持ち込んで使わないでください。屋外に出して使う場合も、窓や空気の取り入れ口の近くは避けてください

厚生労働省は、一酸化炭素について無臭無色であり、低い濃度で死亡する危険があるとしています。使用する場合には、換気を心がけてください。

また、暑い時期の車中泊は熱中症のリスクも高くなります。水分と塩分の補給については、経口補水液とスポーツドリンクの違い熱中症とWBGT暑さ指数の記事もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 停電で冷蔵庫が止まりました。インスリンは捨てたほうがよいですか?

A. 自己判断で捨てないでください。 日本くすりと糖尿病学会は、停電していても冷蔵庫内のインスリン製剤は使用可能であるとの考え方を示しています。凍結や見た目の変化がないかを確認し、迷う場合は薬剤師や医療救護所にご相談ください。

Q. 保冷剤で薬を冷やしてもよいですか?

A. 保冷剤に直接触れさせると凍ってしまうことがあります。凍結した薬は使えません。タオルなどで包み、直接触れないようにしてください。

Q. 坐薬がやわらかくなってしまいました。使えますか?

A. 形が崩れたものは、決められた量を正しく使えないおそれがあります。使用前に薬剤師にご確認ください。

Q. お茶やジュースで薬を飲んでもよいですか?

A. 飲み物によっては薬の効き方に影響することがあります。水またはぬるま湯で飲むのが基本です。水が確保できない状況が続く場合は、薬剤師にご相談ください。

Q. 薬をなくさないために、避難所ではどう管理すればよいですか?

A. 家族分をまとめて1つのポーチや袋に入れ、お薬手帳と一緒にしておくのがおすすめです。夜間の移動や急な避難でも、それだけをつかんで持ち出せます。

Q. ふだんから何を備えておけばよいですか?

A. 薬の予備、お薬手帳(またはコピー)、薬を飲むための水、電池式ライト、医療機器業者の連絡先を、防災用の持ち出し袋にまとめておいてください。薬をどれだけ予備として持てるかは処方の状況によるため、かかりつけの薬局で相談してみてください。

まとめ

  • 停電時は冷蔵庫の扉を開けない。インスリンは、停電していても冷蔵庫内のものは使用可能とされている。自己判断で捨てない
  • 飲み薬の「室温保存」は1〜30℃(日本薬局方)。車内や直射日光の当たる場所は避ける。体温で溶ける坐薬と、冷所保存の指定がある薬は特に注意
  • 薬を飲むための水を確保する。飲み込みにくいときも自己判断で砕かず薬剤師に相談
  • ぬれた薬・変色した薬は使わない。代わりを手に入れる方法はある
  • 在宅酸素は周囲2m以内に火気を置かない。停電時の明かりは電池式ライトを使う
  • 車中泊ではエコノミークラス症候群と一酸化炭素中毒に注意する

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療の代替となるものではありません。気になる症状がある場合や判断に迷う場合は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。

参考文献・出典

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執筆・監修

くすりやきゅー(薬剤師/病院・保険薬局で10年以上勤務)
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