防災リュックに入れる薬と衛生用品リスト|薬剤師が教える備え方

コラム

防災リュックに入れる薬と衛生用品とは、「持病の薬とお薬手帳」を中心に、市販薬・衛生用品・薬を守るための道具をひとまとめにしたものです。食料や水と違い、薬は”その人専用”なので、市販の防災セットを買っただけではそろいません。

防災リュックは用意してある。でも中身を思い出してみると、水と非常食と懐中電灯までは入っているけれど、薬のことは考えていなかった——これは、とてもよくあることです。

災害が起きてから薬を手に入れる方法はあります(災害で薬がなくなったら?処方箋なしで薬を受け取る方法と手順で解説しました)。ただし、その手続きにたどり着くまでには時間がかかります。停電で冷蔵庫が止まり、断水で手が洗えず、避難所では感染症が広がりやすくなる。その最初の数日を、手元にあるものだけでしのぐことになります。

この記事では、薬剤師の視点から「防災リュックに入れておきたい薬と衛生用品」を4つの分類で整理します。家族構成に合わせて足すもの、薬を傷ませない入れ方、そして入れっぱなしにしないための点検まで、順番に見ていきましょう。

防災リュックに入れる薬と衛生用品は、何をそろえればよいですか?

内閣府は、非常時の持ち出し品として「飲料水、非常食、軍手、常備薬、懐中電灯、携帯ラジオ、予備電池、洗面用具、乳幼児がいる方は哺乳瓶や紙おむつ等」を挙げています。首相官邸も、備えとして飲料水は3日分(1人1日3リットルが目安)、非常食は3日分とし、大規模災害発生時には「1週間分」の備蓄が望ましいとしています。

「常備薬」と一言で書かれていますが、実際にそろえるとなると中身は人によって大きく変わります。そこで、次の4分類で考えると整理しやすくなります。

分類入れておきたいもの
① 持病の薬処方薬の予備、お薬手帳(紙)、健康保険証・マイナンバーカード、医療機器の予備電池
② 市販薬解熱鎮痛薬、胃腸薬・整腸剤、かゆみ止め、消毒薬・絆創膏、目薬、酔い止め、常備の外用薬
③ 衛生用品ウェットティッシュ、アルコール手指消毒剤、使い捨て手袋、マスク、塩素系漂白剤、ペーパータオル、ビニール袋、携帯トイレ、口腔ケア用品
④ 薬を守る道具ジッパー付き保存袋、防水ポーチ、保冷剤・保冷バッグ、ペン(日付やメモを書く)

このうち最優先は①です。市販薬や衛生用品は避難先で配られることもありますが、持病の薬だけは代わりがききません。①から順に手をつけてください。

持病の薬は、どのくらい備えておけばよいですか?

まず入れてほしいのは、薬そのものより先にお薬手帳です。

紙のお薬手帳は、電源も電波もいりません。避難先の医師や薬剤師に渡せば、それだけで「何をどれだけ飲んでいるか」が伝わります。リュックに入れるのが不安なら、手帳のコピーや、開いたページを撮影したスマートフォンの写真でもかまいません。お薬手帳の役割についてはお薬手帳のメリットで詳しく解説しています。

次に、薬の予備です。ただし「何日分」と一律にはお答えできません。処方できる日数は診療の内容や薬の種類によって決まっているため、余分に持ち出せる量は人それぞれだからです。

そこで現実的なのは、次の考え方です。

  • 手元にある薬の一部を、防災用に分けておく(新しい薬をもらったら、古いほうを持ち出し袋に移す)
  • 「あと3日分になったら受診・相談する」という自分ルールを決めておく
  • 備えたい理由をかかりつけの薬局・医療機関に平時のうちに伝えて相談しておく

血圧の薬、血液を固まりにくくする薬、糖尿病の薬、てんかんの薬、精神科の薬などは、自己判断で中断すると体調の急変につながることがあります。災害用に取っておくために服用を減らす、ということは絶対にしないでください。

冷蔵保存が必要な薬(インスリンなど)や、電気を使う医療機器をお使いの場合は、停電時の対応をあらかじめ知っておくことが備えになります。停電・断水のとき、薬はどう管理する?もあわせてご覧ください。

市販薬は何を入れておけばよいですか?

市販薬は「ふだん自分が使い慣れているもの」を選ぶのが基本です。災害時に初めて使う薬で体に合わなかった、という事態を避けられます。

用途備えておきたいもの注意点
熱・痛み解熱鎮痛薬持病や飲み合わせで使えないことがあります
胃腸の不調胃腸薬・整腸剤食生活の乱れやストレスで起こりやすくなります
傷の手当て消毒薬、絆創膏、滅菌ガーゼ、テープ片づけ作業でのけがに備えて
かゆみ・虫刺されかゆみ止め外用薬、虫よけ剤年齢によって使えるものが違います
目・鼻目薬、点鼻薬ほこりの多い環境で必要になります
移動・車中泊酔い止め眠くなる成分を含むものがあります

下痢止めには注意が必要です。 避難生活では食中毒や感染性胃腸炎が起こりやすく、こうしたケースでは下痢止めが適さない場合があります。下痢や嘔吐があるときは自己判断で薬を使わず、医師・薬剤師にご相談ください。避難所で気をつけたい感染症は避難所で流行しやすい感染症は?今日からできる予防と対処にまとめています。

なお市販薬は、その分類によって購入方法や相談のしかたが変わります。詳しくはOTC医薬品の分類ガイドをご覧ください。

暑い時期の避難生活では、脱水対策も欠かせません。経口補水液は水やお茶とは組成が違うため、使いどころを知っておくと役立ちます(経口補水液とスポーツドリンクの違い熱中症とWBGT暑さ指数)。

衛生用品は何が必要ですか?

避難生活で体調を崩す原因の多くは、手が洗えないことトイレが使えないことです。ここは薬より優先度が高いと言ってもいいくらいです。

手洗いまわり

厚生労働省は、ノロウイルスについて「消毒用エタノールによる手指消毒は、石けんと流水を用いた手洗いの代用にはなりません」としています。アルコールが効きにくい病原体もあるということです。水が使えないときは、ウェットティッシュで汚れを拭き取ってからアルコールを使うという順番を意識してください。

  • ウェットティッシュ(アルコールタイプと非アルコールタイプの両方があると便利)
  • 擦り込み式のアルコール手指消毒剤
  • 使い捨て手袋
  • ペーパータオル
  • ビニール袋(汚物の処理、簡易的な手袋代わりにも)
  • 塩素系漂白剤(嘔吐物の処理に使います)

トイレまわり

内閣府・首相官邸はいずれも、備蓄品として携帯トイレ・簡易トイレとトイレットペーパーを挙げています。断水すると水洗トイレはすぐに使えなくなり、トイレを我慢するために水分を控えることは、脱水やエコノミークラス症候群につながるおそれがあります。携帯トイレは「あって困らないもの」の代表格です。

口腔ケア用品

見落とされがちですが、これはとても重要です。厚生労働省は被災地での健康管理として、歯みがきを行い、歯みがきができない場合でも少量の水でできるうがい(ぷくぷくうがい)を行いましょうと呼びかけています。口の中が不衛生になると、特に高齢の方では誤嚥性肺炎のリスクが指摘されています。

  • 歯ブラシ(家族分)、洗口液、歯みがきシート
  • 入れ歯の方は入れ歯用の洗浄剤と保管容器

家族に合わせて足すものは、何ですか?

同じ「防災リュック」でも、家族構成によって足すものは変わります。内閣府も、乳幼児がいる家庭には哺乳瓶や紙おむつ等の準備を挙げています。

乳幼児がいる家庭

液体ミルク(お湯がいらず、そのまま飲ませられます)、使い捨ての哺乳瓶や紙コップ、紙おむつ、おしりふき、母子健康手帳(コピーでも可)、体温計。液体ミルクは製品ごとに保存期間や取り扱いが異なるため、表示を確認して定期的に入れ替えてください。

子どもがいる家庭

子ども用の解熱鎮痛薬やかゆみ止めは、年齢や体重によって使えるものが違います。大人の薬を減らして使うことはできません。虫よけ剤も年齢制限のある成分があるため、子どもの虫除けスプレーの選び方子どもの虫刺され薬の選び方を参考に、平時のうちにそろえておくと安心です。

高齢の家族がいる家庭

入れ歯・洗浄剤、補聴器の予備電池、おむつやパッド、老眼鏡の予備、杖。厚生労働省は避難生活でエコノミークラス症候群(血行不良で血の固まりができ、足から肺などに飛ぶことがある状態)に注意を促し、水分補給と定期的な運動をすすめています。あわせて、動かない生活が続くことで筋力が低下する「生活不活発病」への注意も示されています。

妊娠中・授乳中の方

母子健康手帳、清潔を保つための用品。薬の使用に迷ったときは自己判断で中止せず、授乳中の薬の使い方も参考にしつつ、医師・薬剤師にご相談ください。

薬を傷ませない入れ方は、どうすればよいですか?

せっかく入れておいた薬が、いざというときに使えない——これを防ぐポイントは3つです。

1. 温度

多くの飲み薬は「室温保存」とされており、この室温は日本薬局方で1〜30℃と定められています。つまり、夏の車内に置きっぱなしにするのは適していません。「車に積んでおけば安心」と思われがちですが、薬に関しては家の中の涼しい場所のほうが適しています(薬の正しい保管方法もあわせてご覧ください)。

2. 水と湿気

浸水や雨で薬がぬれると、品質が落ちるおそれがあります。ジッパー付きの保存袋に入れてからリュックに入れる、これだけで大きく違います。お薬手帳のコピーも一緒に入れておきましょう。

3. まとめ方

家族分をひとまとめにするのではなく、「誰の薬か」がわかるように分けて入れてください。急な移動のとき、暗い場所でも取り違えません。袋にマジックで名前と、次の点検予定日を書いておくと確実です。

防災リュックの薬は、いつ点検すればよいですか?

入れっぱなしにしないことが、防災リュックで最も大切なことかもしれません。市販薬にも使用期限があり、処方薬はそもそも中身が変わっていきます。

おすすめは、年2回の点検です。防災の日(9月1日)と3月11日、あるいは季節の変わり目など、覚えやすい日を決めておきましょう。点検では次を確認します。

  • 市販薬・消毒薬・ウェットティッシュの使用期限
  • 処方薬が現在の処方と合っているか(薬が変わったのに古い薬が入ったままになっていないか)
  • お薬手帳のコピーが最新の内容か
  • 電池の残量、季節に合った中身になっているか(夏は暑さ対策、冬は保温)

ふだん使うものを少し多めに買い、使った分を買い足していく「ローリングストック」の考え方は、ウェットティッシュや常備の市販薬にもそのまま使えます。

これらの備えは、災害が起きてからでは間に合いません。日ごろから相談できる薬局を持っておくことも、大きな備えの1つです(かかりつけ薬局のメリット)。

よくある質問(FAQ)

Q. 防災用に薬を取っておきたいのですが、飲む量を減らしてもよいですか?

A. いいえ、絶対にやめてください。自己判断で服用を減らすと、血圧の急上昇や発作など体調の急変につながることがあります。備えたい旨を、かかりつけの医療機関・薬局に相談してください。

Q. お薬手帳アプリがあれば、紙のコピーは不要ですか?

A. 両方あると安心です。停電や通信障害でスマートフォンが使えなくなることがあります。紙は電源も電波もいらず、渡すだけで内容が伝わります。

Q. 薬は何日分を防災リュックに入れればよいですか?

A. 処方できる日数には決まりがあるため、一律の日数はお答えできません。まずは手元の薬の一部を分けておき、「あと3日分になったら動く」という目安を決めておくことをおすすめします。具体的な量はかかりつけの薬局にご相談ください。

Q. 市販薬の使用期限が切れていました。使えますか?

A. 使用期限を過ぎた薬は、表示どおりの品質が保たれている保証がありません。処分し、新しいものに入れ替えてください。年2回の点検で防げます。

Q. リュックが重くなりすぎます。何を優先すべきですか?

A. ①お薬手帳(またはコピー)②持病の薬 ③手洗い・トイレまわりの衛生用品 の順です。市販薬は避難先で入手できる可能性がありますが、持病の薬とお薬手帳は代わりがききません。

Q. 防災グッズは車に積んでおけばよいのでは?

A. 薬に関しては適していません。室温保存の薬は1〜30℃が前提で、夏の車内はこれを大きく超えます。薬は家の中の涼しい場所に、車には水や工具などを、と分けて考えてください。

Q. 子どもの薬は、大人の薬を半分にすれば使えますか?

A. できません。年齢や体重によって使える成分・量が異なります。子ども用の市販薬を平時のうちに用意し、選び方は薬剤師にご相談ください。

まとめ

  • 防災リュックの薬は、①持病の薬 ②市販薬 ③衛生用品 ④薬を守る道具の4分類で考えると整理しやすい
  • 最優先はお薬手帳(紙またはコピー)と持病の薬。市販の防災セットではそろわない部分です
  • 衛生用品は手洗い・トイレ・口腔ケアの3方向で。アルコール消毒は石けんの手洗いの代用にはなりません
  • 薬は室温1〜30℃が前提。夏の車内保管は避け、ジッパー付き袋で防水し、名前を書いて分ける
  • 年2回の点検で使用期限と処方の変更を確認する。備えたいからと服用量を減らすことは絶対にしない

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療の代替となるものではありません。気になる症状がある場合や判断に迷う場合は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。

参考文献・出典

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執筆・監修

くすりやきゅー(薬剤師/病院・保険薬局で10年以上勤務)
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